3736518 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

さすらいの天才不良文学中年

さすらいの天才不良文学中年

当世マンハッタン事情

 おいらの履歴書でも公開していますが、1997年から1998年までニューヨークに駐在していました。

 この原稿は、ミニコミ紙「情報の缶詰」(1998年)に掲載されたものです。今、読み返してみると、NYのベーシックな部分はあまり変わっていないという気がします。

 興味のあるお方は、是非ともご一読を。つるぎかずをワールドです。以下、第1回分を掲載。


<当世マンハッタン事情>

 図らずも昨年1年間NYのマンハッタンで駐在員として過ごすことになり、この5月に帰国しました。社命とは言え、突然のNY、そして激動の1年間ということもあり、S社長から「ぜひともその間の経験を寄稿に」という依頼を頂戴しました。したがって、厚かましくも今月から3回に渡って、NYを理解する上でのKEY WORDを披露してみたいと思います。

<KEY WORDその1> 意外! NYは、たこつぼの世界である。

 おいらはビールが大好きだ。風呂上がりのビールはこたえられない。仕事が終わったときの一杯も格別である。海外で飲むビールもまたこれがオイシイ!

 ところが、困ったことが一つある。それは、例えば、NYのある日。冷たいビールを喉越しにゴックンと飲んだ後、おいらの側を通るウエイター(ウエイトレス)に大声で「ビールお代わり!(Another beer, please.)」と言ったとする。「すいません。私の係りではありません(Sorry, it's not my table.)」といって断られてしまうことが往々にしてあるのだ。

 「何じゃ、こりゃ」と思っても、こういうときに限っておいらの席を担当するウエイターが側にいない!おいらは気が短い方ではない。しかし、パッとお代わりのビールが出てこないのはイヤだ。随分と時間が経った頃に間抜け目が「お代わりは如何でせうか(How about a ---)」なんて言いに来たりするのである。てやんでえ、タイミングを失したビールなんて飲めねいぜ。

 これは、つまり、たこつぼなのである。

 ところで、「知らないことを知る」というのは、たとえ仕事上であったとしても、人生の楽しみの一つだとおいらは思う。

 特に、NYのような世界で外人に質問が出来るというのはウレシイものだ。そこで、再び、NYのある日。目星をつけた人物に聞いてみる。「これは一体何でせう(What is it?)」と。しかし、それが自分の担当外の場合には、判で押したように「分かりません(I don't know.)」という回答が平然と帰ってくる。自分の領分以外については知らないでも良いと彼らは思っているのだ。

 でも、まだこれは良い方である。何故なら、知らないことをさも知っているかの如く答える人もいるからだ(NYでは上司からの質問に「知らない」と答えると解雇されるという恐怖感があり、いい加減な回答をすることもあるので要注意)。アブナイのだ。

 うーむ、またしてもたこつぼなのである。

 さらにまだある。他人の電話は、いくら受話器が鳴っていても頑固なまでに絶対取らない。また、アパートのエアコンがこわれたので、修理を頼んだとする。しかし、担当者以外では、いつになったら修理をやってくれるのかこれまた分からないのである。

 NYはおいらにとってあこがれの街であった。出張では何度か訪問したこともある。いわゆる土地勘はあったつもりだ。しかし、出張するのと暮らすのが別だと思い知らされたのは少し経ってからである。実は、この徹底した「たこつぼのルール」も最初にとまどったことの一つであった。

 しかしながら、このたこつぼの世界も捨てたものではない。ある意味では「自分の領分は、しっかりと責任を持つ。担当分野ではスペシャリストである」とも言えるのだ。

 実際、慣れてみると合理的なことに気付くこともある。アメリカのように様々な人種や異言語の人々が集まって仕事をする場合のルールとしては、指揮命令系統がハッキリしている方が合理的であるし(「以心伝心」なんてありえないのだ)、

 また、他人の領分をおびやかすこともない(これもアメリカ社会の基本ルールだ)。「郷に入っては郷に従え」というが、要は、われわれがこの徹底したルールを理解した上で対処していくことが必要なのであると思う(余談だが、アメリカで日本のようなかゆいところに手の届くサービスをして貰うと非常にウレシイ。この日本的な良さをアメリカ型の世界にどう取り入れていくかが、今後の鍵だとおいらは考える)。


<KEY WORDその2> 国際性とは何だろう

 NYは「人種の坩堝」である。でも、人間は溶けて混じり合えない。それで最近は「人種のサラダボール」と言う人の方が多い。実際、5番街(マンハッタン中心部)等を歩いてみると、ありとあらゆる人種・言語が飛び交っていることに気付く
(日本だとこういう経験は六本木あたりでないと経験出来ない?)。

 で、こういう世界に入ると、突然自分がアジア人種だということに気付いたりしちゃうのだ。このとき日本人の行動パターンには二つのタイプがあると言われている。一つは、外人に迎合するタイプ、もう一つは国粋主義に目覚めるタイプである。

 いずれも国際性に欠けると言われることが多い日本人の特徴を良く表していると思う。しかし、国際性とは、外人にへつらうことでもないし、やたら自己主張をすることでもない。ましてや、海外旅行することのみや、ハリウッド映画やサッカーのワールドカップを観ることでもない。

 それは、「異文化や異人種である相手を尊重することが出来ることだ」と思うのである。NYで異人種の友達を作った場合、おいらはその友達を日本料理店に連れていくのが好きだ。それは、おいらが相手を尊重していると同時に、相手もおいらを尊重してくれ、おいらの注文する料理がおいしいと言ってくれるからである。それが、国際性だとおいらはNYで気付いたのである。
     
(以下次号)




© Rakuten Group, Inc.